逃げ切れるかな

長いこと瓶に詰められていた。
私を瓶に詰めていたのは誰なのか親なのか悪代官のようなひとなのか、ある日青年がきて瓶の栓を開けて私を連れて逃げた。

はじめ私はとても小さくて(瓶に詰まるほど)淡い緑の燐光を放っていたのだけれど青年と一緒に逃げている間に光は消え体は少しづつ大きくなり小柄な女の子と変わらなくなった。
人間になると小さかった頃のことは少しづつ忘れてただぼんやりと恐いところだったような気がしてきたので青年の腕を軽く咬んでしがみついた。
青年のからだの凹みにぴたりはまる日を望んだ。

身を寄せるアパートにはいつのまにか協力を申し出る人たちがたくさんやってきて、あまりに頻繁にくるので
そのうち居場所がばれてまた瓶に詰められてしまう日に戻ってしまうような予感がしていた。
協力を申し出る人たちはだんだん不躾になってゆきだんだん青年を見失うことも多くなって私はだんだん不機嫌という感情を覚えた。

移動しなければ、と思ったらついに青年を見失ってしまった。
目の前に厚い大きなガラスが見えていつの間にかまた瓶に詰められてしまっていた。
今度の瓶はたいそう大きそうではじめは途方に暮れたがまたそのうち慣れてしまうだろうなので、慣れて感情を忘れる日を待つことにした。
はじめは多分青年のからだの凹みの感触を忘れてしまいそうだと思った。