夜市

きつねと呼ばれる少年がいた。
彼は、狐になりたかった。
こうべ作り見習いユキオのうちを度々訪ねてはユキオの作った骨をかぶって狐のように振る舞った。
骨をかぶったままユキオの手を引いて夜市に出掛ける。
夜市は毎日が縁日のようで人間もけものもそうでないものも境目がなく溶け込んで交じり合う。
毎回ユキオは引き込まれて取り込まれそうな気分になるが、手を引くきつねのてのひらの冷たさだけを頼りに引き止められていた。


人に化けることのできる狐は長生きをしている狐で、300年生きたら化ける力が身につくのだという。
きつねはそのことを知っている。
ぼくも300年生きれば良いんでしょう?と骨をかぶったきつねがユキオを見上げるが
真っ黒な眼窩で表情がわからないので感情がわからない。


きつね、お面やさんで狐のお面を買ってあげようか?
とユキオが言ったがきつねは首を振った。
ユキオの頭蓋骨のほうが具合がいいのだという。
空気がすうすうと通り抜けて苦しくならないし、雨の日は雨の音が骨の内部にやわらかく響いて気持ちがいいのだ、という。
ほんとはぼく、狐になりたいわけじゃないんだ。
きつねがそっと言った。
最近どんどんどうでも良くなっているんだ。


夜市の夜は、更ける。