春、その三。

妻が消えて約一年、わっちは色々なことを考えていた。
一番考えていたことは なぜ消えたのは妻であったのか、ということと なぜわっちが妻の前から消えてやらなかったのだろうかということである。
これは自慢であるが、妻は結構な美人で性格もたいそう明るい人であった。
しかし悪いことを全部からだの中にしまいこむ性質で、明らかに妻が悪いことではないようなことまで自分の所為でそうなってしまったのだと思い込んでどんどん溜め込むような人でもあった。
妻の厄介なところは、そうやって溜め込んだものを小出しにせずある日どっと解き放つところにあり、妻が実は繊細であったということを、情けないことにわっちはいつも傷つけてから思い知るのだった。
最後に妻と交わした会話は「行ってきます」であったが言ったのは妻のほうで、わっちは布団の中で夢心地であった。
その前の晩、わっちらは妻のお腹の中に居た子供を失っていた。