ステレオジェニコ。

雨が降る寒い春の夜だと思っていたら、蒸し暑い初夏だった。

湿気がまとわり付いて肌が痒くなってきたので掻くと掻いてすうすうとする隙間に湿気が入り込んでさらに痒くなったような気分になったので掻くのをやめて我慢した。


原田は、原田と書いて「はるだ」と読む。
おもしろい名字だと思う。

待ち合わせに少し遅れてきた原田の格好はあせた青のよれよれのTシャツに色あジーパンで、格好は夏だがなんとなく田舎の夏の夜のような感じがしてさらに蒸し暑さが増した気がした。
「見てるだけで痒くなるような厚着だなぃ」と原田はこちらを笑ってそのあと「久しぶり」と言った。

かりかりかり。

電車の中も蒸し暑かった。
雨がかるく降ってきていたらしい。


「おまえ、相変わらず梅雨時はしんどそうね、俺はやっとつらい時期が過ぎたから快適だわ」
と原田がいう。
原田はひどい花粉症で春先はつらいのだ。
逆にこっちは梅雨時になるとアトピー持ちの肌がつらくて仕方がない。

「原田の方は相変わらず野球やってんの?」
「や、おととし、肩を壊したもんでもうやっとらんのだわ。
ま、人生は往々そんなもんよね。
おまえ、おばさんから何も聞いてなかったのか。
そんで去年必死こいてバイトして金貯めて今年大学生になったわ。」
「バイトって、おまえ」
「うん、頑張ったのだが一年の学費にも満たなかったんで残りは親に借金してな、だから今日はおまえんとこに来たとゆうわけよ。ルームメイトに逃げられたんだって?俺はちゃんとおばさんから全部聞いたわ」

そのつもりで来たのか。
原田の晴れ晴れとした厚かましさは、会わなくなって三年経っても変わらず健在だった。


つづく