デイジーおじさん。

勤務も終わりかけの、午後の図書交換便がもうすぐやってきて貸出返却のお客さんもピークになり最も忙しくなる時間に、彼はやってきた。

「電話で取り置きを頼んであるはずの本を出してくれ」
「では貸出カードを拝見させていただいてよろしいですか」
「忘れた」
「では恐れ入りますがこの紙に住所氏名電話番号をお願いします……(手元を見て)お客さま、世田谷にお住まいですか?こちらの区にお住まいでは?」
「世田谷からきたんやけど(関西の人のようですが関西弁よくわからないのでこれ以後標準語で)」
「(取り置き棚に本を探しに行った別の職員)失礼ですがお探しの本の書名をお教えいただけますか?」
「……でぃじーぇの本なんだけど、取り置いてないのか?電話してわざわざ世田谷から来たのに」
「デイジーの本でございますか…」

その後、彼は資料が取り置いてないことや誰もそんな電話を受けてないことを知り怒りが頂点に達し喚き始める。

「確かに電話したんだ!」
「もう一度詳しく書名をよろしいですか?」
「さ、い、ぼ、う、ず、でじーえ」
サイボウズデジエですか?うちの図書館ではなく区内の別の図書館でお取り置きしていると表示されておりますが…○○図書館です」
「そんな図書館知らん、俺はちゃんと調べて電話もして取り置くって言われたから来たんだ!」
「じゃあ○○図書館に電話して確認しますから!(怒)……(数分後)○○図書館でお電話を取って取り置きにしたそうですが?」

一瞬、空気が止まった。


わたしら、完全に悪くないじゃないか!!


その場にいた全員がそう思った。
しかし男はあくまでも電話したのはうちの図書館だと主張し(名前も電話番号も違うのに!)、あまつさえ

「ふざけんじゃねえ、バイク便で取り寄せろ、俺は電車賃が勿体ないから嫌だ!
こんな区俺は生まれてから一度も来たことないからいくつも図書館があるなんて知らない、不案内だ!」

と言いだす始末で、あまりの横暴さにみなむかむかとさせられた。
一番可哀相だったのは世田谷から通って来ている職員で、「ごめんなさい…でも世田谷にもたくさん図書館はあるんですよ?」とすまなそうに小さくなっていた。
ちょうど交換便も来て忙しさがピークになり貸出のお客さんもたくさん並んでいるのに男はカウンターの前で喚き散らして邪魔なことこの上ない。
結局職員の一人が車で取りに行くことになったのにいつまでもうだうだいうので最終兵器係長(見物してた)がようやく動いて「他のお客さまに迷惑なのでどいていただけますか」と言ってなんだかんだなだめすかして二階に追い払った後は皆腹の底に溜まった黒いどろどろをどうしたらいいのかとにかく煮え繰り返ってしまって
事件を知らない職員が捕まって愚痴をこぼされていた、災難。

とりあえず一言で言うなら



知らんがな!



「お客さまは王さまです。ですが、王さまの中には首を切られた王さまもいます」
ドラマ、王様のレストランの千石さんの台詞を思い出しました。

よく考えたら彼は区民じゃないから利用対象者じゃないじゃないか!



結局、四十分後、届いた本を係長が持っていったところ
彼はちょっと涙目になって「時間なくなっちゃった…」と本を手に閲覧室に入っていったそうです。




知らんがな!