事務室の窓の外はアロエ畑、なにやらみーみー泣き声がするのでがたつく網戸をあけてみるとちんまい子猫が鳴いていた。
おいでと声をかけるとトコトコやってきたので恐る恐る手袋をした手で抱き上げてやる。
生後何日なのか、たいへんちいさくあたたかいのがふるふるふるえる様子が可愛らしい。

飼いたいなあ、でもうち畳だしなあ、でも里親見つかるまで飼ってみたいなあ、などと考えていたらたちまち休み時間中の小学生達に見つかって窓の外に人だかりができてしまい「抱かせて」と言うので抱かせてみると
男の子はお爺さんが猫を飼っているそうで猫の扱いがなかなか堂に入っており、猫の目にたまった目やにもさっさと拭き取りミルクの与え方も「皿にあげても飲まないのはまだ飲み方がわからないからでスポイトみたいなやつを使わなきゃダメだよ」と言うので
代わりにパック牛乳のストローを渡してみるとこれを使ってうまく授乳させるのでこの子は親や祖父母からよく学んでいるのだなあと感心した。

次の休み時間にやってきた女の子集団はこれに比べるとちとまだ知識が足りないのか可愛い可愛いと次々に子猫を抱き渡したあげく寒いだろうと段ボールにホッカイロを仕込もうとしたので慌てて止めた。
私にもちょっとねこ抱かせておくれと言うと露骨に「大人がそういうことを言うなんて!」と言われ牛乳をやっていると自分たちもやりたくなったのか「その子もうお腹いっぱいみたいだからかえしてください!」とあっという間に取り上げられた。
ちと憎らし。

そのころ職員室では猫を家で飼いたいという生徒が次々やってきて大変だったらしい。
はじめは放っておいたらそのうち親猫が迎えにくる、余計に人間の匂いを付けたらダメよと言っていたのがあまりにみんなが触りかまいまくるので
飼いたいという生徒の順番を決めておいて本当に飼ってもいいよと親が言ったらもらってもいいけれども、もし親猫が迎えにきたらそっちに渡すことということに決めたらしい。

すっかり自分らの物だという気分になったのか子供らは各自勝手に猫に名前を付けるのだが定番のミケ、チビに加えて太子作やーと呼ぶ輩もいてなかなかおもしろいのがたぶんこの太子作は雌だと思う。

私は、子供らの前ではクールにしていたのだが家に帰ってからは猫のことが頭から離れずずっとぬこぬこうるさく言いながら布団のうえで暴れ回った。