昨日はとても寒く、暗い夕方でした。
一日のカウンター業務も終わり、事務室でポットのお湯を捨てたり
帰りの支度を始めようかなあ、と思いふっと心地がゆるんだその時でした。

       電話が鳴りました。

閉館間際に「まだやってますか」とか「借りた本は何冊だったかな」とかいった電話がなるのはいつものことです。
私は、メモ用紙を引き寄せ受話器を取り「ハイ、図書館でございます」と応答しました。

はじめは間違い電話、カバンのなかに入れた携帯が勝手にリダイアルをしてしまって図書館につながってしまったのかと思いました。
かすかに声が聞こえます。
「もしもし、すいません、ちょっと聞き取りづらいんで大きめな声でお願いします!」
言いながらこちらの受話音のレベルも最大にします。
かさかさと、ごく小さな雑音が聞こえるようになりましたが相変わらず相手の声は小さく聞き取ることができません。
でもかすかに「……どうしよう…」と言っているようにも聞こえます。
「ご返却でしたら図書館もう閉館ですのでブックポストにお願いしますね」
いくつなのか、男性なのか女性なのかもわからないかすかな声が「……でも…」と言ったような気がします。
「図書を紛失された等のご相談でしたら明日は十時開館なので明日いらしてください」
小さな声はかさかさした沈黙を続け、ときたま「でも」「どうしよう」としか聞こえないようなつぶやきを洩らしてきます。
同僚の先輩も不安げな顔で「切っちゃえば」と言ってきます。
ああ悪戯電話なのかあ、そう思いましたが違ったらあとでもめるかなと考えもうちょっとだけ付き合うことにしました。
悪戯電話は初めて聞くし、たまに図書館にくるちょっと人付き合いの苦手な幾人かが頭に浮かび、もう一度
「ご用件はなんでしょうか」と呼び掛けました。
相変わらずの静かの中にかさかさが聞こえ、その後ろの方から一言「……でる…」とつぶやく声がしました。
ちょっといろんなことを思い浮べつつ「家を出られましても、図書館は閉まっているんで本はブックポストに入れてくださいね、では電話を切らせていただきます」
もうそろそろこのやりとりにも飽きてきたのでそういうと、声はやはりぼそぼそと、しかし急に「……まって……だめ……もうちょっと…だめ…」と繰り返すようになり、ウワー本物ダァー!と思って先輩に受話器渡して「では何かありましたら明日またお電話くださいねー」と即切りしてもらいました。

明日の当番男性いないよ!?とみんなでちょっと震えつつカウンターに唐辛子スプレーや事務室入り口に竹刀とか準備して帰って「東京タワー」観てちょっと泣いて「コブラ」読んで格好よさに震えて寝ました。