11月20日のこと

結婚式をした。
10日前あたりから毎日天気予報をチェックしていたのだけど、わりところころ変わる予報の中なぜか式を挙げる日だけずっと頑なに予報は雨マークで固定されていて、式の不安とかマリッジブルーとかそういうのよりむしろ天気天気そればかりが気になって結果的にはそれで良かったのかもしれない。
前日ちゃんと予報は曇りのち晴れマークに変わって一安心も、そうなってくると今度はせっかく外の教会なのだから風船も飛ばすことだし式の時にも晴れてなきゃ嫌だ、とかこれがうわさの花嫁脳かっていう不謹慎でわがままなことを考えたりしていたが、雨神様は優しいのでちゃんと朝から晴れ空を見せてくれた。

朝起きだして支度をして電車に乗って一駅となりの区役所へ婚姻届を出しに行く。
土曜だったので守衛さんに預けてすぐ終わるのかと思ったら、書き漏らしがないかチェックした後もう二人チェックが入りなんだかんだで結構時間がかかった。どうしてもこの日付けで入籍したいとイノウエさんが言うので、前日区役所で内容に不備がないか確認してもらっていたので大丈夫だという気持ちはあるもののなかなか受理してもらえなかったので少し不安になったが、不安になったあたりでやっと「お預かりします」と言われたのでふわっとやってきてすとんと腑に落ちる感じがした。実感はないけどこの瞬間から今までの自分とは違う自分になったんだという感覚。

家に帰ってイノウエさんは遅刻していた床屋へ走って行き、私は化粧も何もしないでよかったのでぼんやりテレビを見ながら朝ごはんのパン(前日ホテルで買ったおいしいパン)を食べた。パンを食べながら2次会で使う音楽のCD を焼いた。披露宴はまったく私の好きな音楽を使わせてもらったので、2次会は井上さんの好きな音楽を使えばと言ったのだけど、結局時間がなくて入場曲だけしか決まらなかった「ゴーストバスターズ」。特に二人とも思い入れのある映画というわけではなくなんとなく、ノリで決めた。時間があったら「結婚行進曲」のオープニングを「ロッキーのテーマ」につないで編集して入場したかったらしい。そんなことをしているうちに時間が来たので、二次会の衣装やらお泊りセットやら色々持って井上さんを迎えに行く。

ホテルに着いたら荷物を預けて早速メイクを施された。色々なブログやエッセイやマンガを見る限り、色々塗りたくられたり付けまつげをして「・・・これが私!?」みたいな少女マンガみたいな展開になったり、けばけばしいメイクをされて愕然とするのかなと思っていたのだけどそんなことはなく、思っていたよりナチュラルメイクでつけまつげもしなくてよろしいですあなたのまつげはと言われいつもより丁寧メイクな感じの自分がいた。それでも普段したことのない髪形とメイクは心が弾む。

ドレスも着させてもらって、それじゃあ写真でも撮りますか、となって移動。移動途中の道が普通に参列者の待合室に近かったので思いっきりみんなに目撃される。カメラマンの人がここで写真を何枚か撮りますというので結局結構な数の人に見られた。
スタジオ写真を撮って、親族紹介。部屋に入るとお赤飯が置いてあって、ホテルのサービスは行き届いてるなあと思ったら家の母親の仕業だった。母親は隙あらば赤飯を作る人です。母親の兄が軽い小ボケを天然でかまして場が和んだ。イノウエ一族はみんな背が大きい。

挙式。控え室で一心不乱に式のやり方のDVDを見るイノウエさん。神父さんがとても優しい方なので「ナニカアッタラ、ワタシガタスケマス」と言ってくれているのを他人事のように見ていたのだが、まさかその後自分がドレスのすそ踏んづけてスムーズに歩けなくなったり、イノウエさんの指に指輪がはまらなくていらいらしたりすることになるとは思わなかった。ドレスのすそをけって歩いてくださいといわれたけど、けってもまとわりつくもんなんだなあ。式はもう一度やり直したいような気もするけれど、天気が晴れたから多少のハプニングなんてその代償だと思えば良いやと式中ずっといたずらな子鬼か妖精みたいなものがあちこち走り回っている錯覚がついて回ってなんか和んだ。退場ではまたすそ踏んづけてドレスのワイヤーを落っことしてしまった。子鬼、やりよる。これ以来、ずっとスカート持ち上げながら歩くことを決意する。フラワーシャワーのあと、ブーケトスはやらずにみんなで風船を飛ばした。打ち合わせでは私たちも丸い風船を飛ばしたいと言った気がするけど、でっかい赤いハートの風船がきてしまったので、それはそれでみんなが笑ってるから良いかなと思い飛ばした青い空に紅白の風船がとてもきれいで本当にこのために晴れを祈願した甲斐があったと思う。具体的には晴れを呼ぶために一週間前からネットで不幸な話や修羅場の話などを読むのを自粛したり、神様にお酒を奉納したり、照る照る坊主を作ったりした。
またスタジオへ移動して家族写真や招待客全員と写真を撮った。みんな油断してタバコを吸いに行ってしまい集合が遅れて面白かった。

ヴェールを外し、分けていた前髪をまっすぐに下ろして披露宴。こっちの入場はスカート持ち上げながら歩いたので動きはスムーズ。席について見渡すと、なんか別視点で他人事のように見てる自分がまた出てきて面白い。みんなに注目される機会があまりないので気恥ずかしいからこっちみんなと思った。
友だちによる自己紹介スピーチ。イノウエさんの友だちが軽いジョークを交えて場を和ませ、私の友だちが可愛らしく華のあるスピーチ(しかもとてもほめてくれて嬉しい)をしてくれた。彼らにトップをお願いしたおかげで雰囲気が柔らかくなり、リラックスした雰囲気で始まることができた。乾杯を頼んだイノウエさんの上司はすでに酔っていた。写真を撮ったりしているうちにあっという間に退場時間になり白ドレスと髪型がかなり気に入っていたので退場したくないなとちょっと思った。弟と腕を組んで出る。着替えてメイクと髪型とドレスをチェンジ。スタジオで写真を撮って、イノウエさんも外見チェンジ。カツラと付け髭をつけ、昔のイノウエさんが戻ってきた。ちょっとキュンとした。欲を言えば髪の毛がエアリー過ぎることが多少残念。
再入場の前に生い立ちビデオが流れた。ちゃんと思い通りのところでウケていて、ビデオを不眠不休で作ったイノウエさんが安堵の表情。ビデオ作成時間の8割は、PCのスペックが足りないことによるメモリー増設やら編集ソフトが固まることに対する苛立ちとかそういうことに費やされたのだけど、普通に頼むとバカ高いのでシンプルなムービーながらなんとか完成して感動もひとしおだろうなと思った。
ビデオ終了とともにドアが開いたら、そこからはハイパーイノウエタイムだった。招待者が昔のイノウエさんを知る人ばかりなので、みんな死んだと思ってた人が生きていたかのような喜びよう。私はカラーにそんなに思い入れはなかったので、おまけで「きれいだよー」といってもらえればそれで満足。テーブルを回って写真を撮って、着席。付け髭の接着税が取れそうでご飯が食べられないイノウエさんを尻目にもりもりご飯に手をつけた。何回も試食したけど、おいしいなー。

披露宴も中盤になり、友人スピーチ。お互い親友にスピーチを頼んだ。イノウエさんの友だちは自己紹介をしてくれた友だち同様話がとてもうまく、引き込まれる話しかたで誠実さが伝わってきた。私はもう何年も前から結婚するならこの子に頼もうと思っていて、始まる前から泣きそうになっていた。さらに言うなら式の前からずっと勝手に色々想像しては泣きそうになっていたので、話し始める前から涙目で話し出せないあの子を見てそれだけで満たされた。この先何年も、きっと思い出しては私泣いてしまうんだろうな。自分のために泣いてくれる友達と出会えて、本当に、生まれてきてよかったと思う。
そういう出会いも、両親が生んでくれたからなんだよなと思いながら両親への手紙を書いていたので、その後の手紙の朗読はもちろん泣かないはずがなく、予定ではもっとさらっと読むはずで最後まで我慢したのに手紙を渡す瞬間に母親がぎゅっと手を握ってくるものだから、ずるいなあもうと思いながらちょっと泣いてしまった。
そしてイノウエさんが挨拶をして退場してエンドロール(これもイノウエさん作)が流れて、無事全部終わった。披露宴は子鬼でなかったなと思ったけど、デザートのベイクドアラスカの火を吹き消したりしてこっそり暗躍していたようだ。

2次会。先に悪いことを書く。レンタルのドレスを一ヶ月ぶりに着てみたら痩せたためか胸がぶかぶかで慌てて美容室のお姉さんに泣きついて何とかピンで留めてもらったり、イノウエさんが母親に財布を預けたままだったことに気がついて取りに行ったりばたばたしていたので、2次会用のプチギフトを持って会場にくるのを忘れてしまい、2次会参加者にプチギフトを渡せなかったという大失態を犯した(タクシーで持ってきてもらって3次会にはなんとか間に合った)。忘却の子鬼はずるいわア。
それを置いておくと、2次会は和やかで楽しかった。イノウエさんのサークルメンバー主体の会だったのだけど、こちらの友だちにも色々気を使ってもらったのでみんな気持ちよく過ごせ、私などは調子に乗ってビンゴに参加してしまい挙句の果てに夜の営みグッズを当ててしまうという空気の読めなさを発揮してしまった。席もふらふら移動して友達とたくさん話せたのが良かったな。またいつかこういう会に参加したいものだなと思った。
イノウエさんはたくさん食べるぞーといっていたくせにほぼ酒で腹を満たし泥酔してしまい、お話にならなかった。ホテルに何とか連れ帰って、一人でホテルのスイートルームを満喫して楽しんで寝た。すごい部屋過ぎて後2日くらい泊まっていたかったなあ。次の日遅く起きたけどチェックアウトが2時だったので、ホテルで朝食バイキングぎりぎり間に合ってがつがつ食べた。本当にここのホテルのパンはおいしい。パンだけでおなかがいっぱいになってしまい、それは悔しいポイントの一つだった。おかゆもおいしかったなあ。

昨日のことは全部夢だったのかな、そう思うくらいあっという間に過ぎた1日だったけど、やってよかったな、みんなにお祝いしてもらえて本当に嬉しかった。忘れないようにちゃんと日記に書いて覚えておこうと思った。