連想『田紳有楽』

のんべえが、ぐい呑みの中で泳ぐ金魚に恋をした。
男は月を白くざらざらしぐい呑みに浮かべ尾ひれをゆらゆら揺らしている金魚を見ていた。
中身が酒なのか水なのか、覚えていないが狭いぐい呑みの中をくるくるとしている赤い金魚がたまらなく愛しかった。
あまりに愛しくなったので、一気に飲み干した。

わたしの血に、なれよ。

ゆっくりゆっくりと体にとけてゆくように思えてたまらなくなった。
空になったぐい呑みに酒を注いだらまた月がうつった。
月はぶれると、金色の魚になった。

金色の魚がぐるぐるぐい呑みの中を泳ぐと、次第に赤いひらひらがあらわれて
気が付いたら金と赤の二匹のさかなが泳いでいた。
二匹は狭かろうと思っていたら赤いほうがするりと煙のようにぐい呑みから抜け出すと男のへそにもぐりこんで
胸のあたりがあたたかくなった。
胸がどきどきとなるのでさすっていたら指の隙間から先程のみこんだはずの金魚がつるりと滑りおちた。
金魚は膝のうえでくるくる回転すると、大きく跳ねてぐい呑みの中に飛び込んだ。

酒が跳ねて指を濡らしたので、目が覚めた。
いつのまにか寝ていたのね。
わたしの膝に頭をのせて眠る男のほんのり赤いほほに濡れた指を這わせる。
くるくると指を這わせる。
くしっ、とくしゃみめいた声をだして顔を背ける男の手から空のぐい呑みがころりと落ちた。

あなたのなかは、とてもあたたかかった。

座ったまま転寝たので背中がすこし痛い。
男の頭を抱くように体をまるめて、あごに軽く口付けると電気を消してまた眠った。
男の腕の、かたのくぼみに頭を落ち着けて眠った。