川上弘美「東京日記 卵一個分のお祝い。」を読んだ。


川上弘美さんの文章はエッセイも小説もまるくてやわらかい。
刺々したことも、なんだか「とげとげ」としているようなかんじ。
センセイの鞄」がドラマ化されたときに、主人公の月子さんの役を小泉今日子さんが演じたけれど
私は川上弘美さんの小説に出てくる女の人はみんな川上弘美さんなのだと思っていたので違和感だった。
ちょっと大柄で不器用で、いつも半ズボンにゴム草履をはいてぺとぺとあるいている髪の長い女のひと
あなたは、物語から出てきた人なのではありませんか?といつも思う。
いちどお酒を一緒に飲んでみたいなあとも思う。
「卵一個ぶんのお祝い。」を読んだらまた近しいような気持ちになったのだった。


同じく川上弘美さんのエッセイ「此処彼処(ここかしこ)」も夕方の便で届く。
上司の職員さんがわざわざデータをチェックして「それは新刊なのだから働いている人は本当は予約してはいけないのだよ」と言ってくるが、スイマセンと謝りつつ心のなかで舌を出す。



そういえば最近、ネットで志穂美悦子さんが98年くらいに連載していた日記を読んだ。
ラソン大会に参加したときの練習や思ったことが書いてあったのだけど志穂美悦子さんといえば日本が誇る女武闘星で、
夏頃に観た「若い貴族たち 13階段のマキ」での華麗なアクションと悲しみを湛えた瞳の印象がとても強くそんな彼女を独り占めして閉じ込める長渕はなんてぜいたくものなのだ!と憤慨していたのだけど
志穂美悦子さんの文章はとても可愛らしくて微笑ましく、何度も頬の筋肉がにこにことゆるんでしまった。


肉体改造にある日突然目覚めてしまって部屋に次々筋トレマシーンを運び込む長渕に「あれ!まあ…もう!!」と声を上げる描写や
ロッキーのテーマを頭のなかに鳴らしながら、じゃあ私はエイドリアンね!と夫の肉体改造をサポートしつつ実は内心鍛えあがる体に嫉妬してしまったりしながら暮らしていたんだなあと思って読んでいたら



「結婚当初の私はと言えば、ヘリコプターにぶら下がれても味噌汁のだし汁のとり方は知らなかったし
三階建てくらいの建物から飛び降りることはできてもキャベツの千切りはできなかった。
ロープとワイヤーの違いは解ってもアジとイワシの区別はつかなかった…とまあこんな具合でした。(ウフ!)」



なんて、なんて愛らしい人なんだ!
特に「ウフ!」は私も実際に使っていこうと思ったのでした。