泪目と夢目と醒目。

彼は彼女を見ると涙がでる、と泣きながら言う。
彼女より美人も可愛い子もいくらでもいるのに、と泣く。
強い感情で泣く。

彼女は夢を見る。
音も風もない真っ暗な夜を見る。
不穏な夜です、台風のあとみたいな夜です、と話す。
台風の前じゃないの?というと少し哀しげな顔をする。

私は目に見えるものだけを見る。
名前も知らない女の子の顔を見ただけで泣いたりしない。
台風のあとの空を夢で見て不安な気持ちになったりしない。

彼は彼女に恋をして彼女は私を慕い私は彼と友人で彼女と他愛のない話をして夜を過ごす。
彼と彼女は知り合いではなく私は彼の焦がれる彼女が彼女だとは知らないので余計なことを考えずに今日もまた彼から名前も知らない彼女の話を聞き今夜も彼女の夢の話を聞く。
ときどき彼女も泣く。
すべて何にも考えずただ見ているだけ。